Music
Artist: Voices of Music
Album: An Evening With Bach
07-Prelude in C Minor (BWV 871)

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transcript
男の子はまるでパイをたべるように、もうそれをたべていました。またせっかくむいたそのきれいな皮(かわ)も、くるくるコルク抜(ぬ)きのような形になって床(ゆか)へ落(お)ちるまでの間にはすうっと、灰(はい)いろに光って蒸発(じょうはつ)してしまうのでした。
二人(ふたり)はりんごをたいせつにポケットにしまいました。
川下の向(む)こう岸(ぎし)に青く茂(しげ)った大きな林が見え、その枝(えだ)には熟(じゅく)してまっ赤に光るまるい実(み)がいっぱい、その林のまん中に高い高い三角標(さんかくひょう)が立って、森の中からはオーケストラベルやジロフォンにまじってなんとも言(い)えずきれいな音(ね)いろが、とけるように浸(し)みるように風につれて流(なが)れて来るのでした。
青年はぞくっとしてからだをふるうようにしました。
だまってその譜(ふ)を聞いていると、そこらにいちめん黄いろや、うすい緑(みどり)の明るい野原(のはら)か敷物(しきもの)かがひろがり、またまっ白な蝋(ろう)のような露(つゆ)が太陽(たいよう)の面(めん)をかすめて行くように思われました。
「まあ、あの烏(からす)」カムパネルラのとなりの、かおると呼(よ)ばれた女の子が叫(さけ)びました。
「からすでない。みんなかささぎだ」カムパネルラがまた何気なくしかるように叫(さけ)びましたので、ジョバンニはまた思わず笑(わら)い、女の子はきまり悪(わる)そうにしました。まったく河原(かわら)の青じろいあかりの上に、黒い鳥がたくさんたくさんいっぱいに列(れつ)になってとまってじっと川の微光(びこう)を受けているのでした。
「かささぎですねえ、頭のうしろのとこに毛がぴんと延(の)びてますから」青年はとりなすように言(い)いました。
向(む)こうの青い森の中の三角標(さんかくひょう)はすっかり汽車の正面(しょうめん)に来ました。そのとき汽車のずうっとうしろの方から、あの聞きなれた三〇六番の讃美歌(さんびか)のふしが聞こえてきました。よほどの人数で合唱(がっしょう)しているらしいのでした。青年はさっと顔いろが青ざめ、たって一ぺんそっちへ行きそうにしましたが思いかえしてまたすわりました。かおる子はハンケチを顔にあててしまいました。
ジョバンニまでなんだか鼻(はな)が変(へん)になりました。けれどもいつともなく誰(だれ)ともなくその歌は歌い出されだんだんはっきり強くなりました。思わずジョバンニもカムパネルラもいっしょにうたいだしたのです。
そして青い橄欖(かんらん)の森が、見えない天の川の向(む)こうにさめざめと光りながらだんだんうしろの方へ行ってしまい、そこから流(なが)れて来るあやしい楽器(がっき)の音も、もう汽車のひびきや風の音にすりへらされてずうっとかすかになりました。
「あ、孔雀(くじゃく)がいるよ。あ、孔雀(くじゃく)がいるよ」
「あの森琴(ライラ)の宿(やど)でしょう。あたしきっとあの森の中にむかしの大きなオーケストラの人たちが集(あつ)まっていらっしゃると思うわ、まわりには青い孔雀(くじゃく)やなんかたくさんいると思うわ」
「ええ、たくさんいたわ」女の子がこたえました。
ジョバンニはその小さく小さくなっていまはもう一つの緑(みどり)いろの貝(かい)ぼたんのように見える森の上にさっさっと青じろく時々光ってその孔雀(くじゃく)がはねをひろげたりとじたりする光の反射(はんしゃ)を見ました。
「そうだ、孔雀(くじゃく)の声だってさっき聞こえた」カムパネルラが女の子に言(い)いました。
「ええ、三十疋(ぴき)ぐらいはたしかにいたわ」女の子が答えました。
ジョバンニはにわかになんとも言(い)えずかなしい気がして思わず、
「カムパネルラ、ここからはねおりて遊(あそ)んで行こうよ」とこわい顔をして言(い)おうとしたくらいでした。
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Aozora-Bunko (http://www.aozora.gr.jp)
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09e_gingatetsudo

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