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Music
Artist: Daniel-Ben Pienaar
Album: JS Bach – Book 1 CD1 Well-Tempered Clavie
17 – Prelude Fugue No. 9 In E Major, BWV 854: Praeludium

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transcript
「なにがしあわせかわからないです。ほんとうにどんなつらいことでもそれがただしいみちを進(すす)む中でのできごとなら、峠(とうげ)の上りも下りもみんなほんとうの幸福(こうふく)に近づく一あしずつですから」
燈台守(とうだいもり)がなぐさめていました。
「ああそうです。ただいちばんのさいわいに至(いた)るためにいろいろのかなしみもみんなおぼしめしです」
青年が祈(いの)るようにそう答えました。
そしてあの姉弟(きょうだい)はもうつかれてめいめいぐったり席(せき)によりかかって睡(ねむ)っていました。さっきのあのはだしだった足にはいつか白い柔(やわ)らかな靴(くつ)をはいていたのです。
ごとごとごとごと汽車はきらびやかな燐光(りんこう)の川の岸(きし)を進(すす)みました。向(む)こうの方の窓(まど)を見ると、野原はまるで幻燈(げんとう)のようでした。百も千もの大小さまざまの三角標(さんかくひょう)、その大きなものの上には赤い点々をうった測量旗(そくりょうき)も見え、野原(のはら)のはてはそれらがいちめん、たくさんたくさん集(あつ)まってぼおっと青白い霧(きり)のよう、そこからか、またはもっと向(む)こうからか、ときどきさまざまの形のぼんやりした狼煙(のろし)のようなものが、かわるがわるきれいな桔梗(ききょう)いろのそらにうちあげられるのでした。じつにそのすきとおった奇麗(きれい)な風は、ばらのにおいでいっぱいでした。
「いかがですか。こういう苹果(りんご)はおはじめてでしょう」向こうの席(せき)の燈台看守(とうだいかんしゅ)がいつか黄金と紅でうつくしくいろどられた大きな苹果(りんご)を落(お)とさないように両手(りょうて)で膝(ひざ)の上にかかえていました。
「おや、どっから来たのですか。立派(りっぱ)ですねえ。ここらではこんな苹果(りんご)ができるのですか」青年はほんとうにびっくりしたらしく、燈台看守(とうだいかんしゅ)の両手(りょうて)にかかえられた一もりの苹果(りんご)を、眼(め)を細(ほそ)くしたり首(くび)をまげたりしながら、われを忘(わす)れてながめていました。
「いや、まあおとりください。どうか、まあおとりください」
青年は一つとってジョバンニたちの方をちょっと見ました。
「さあ、向(む)こうの坊(ぼっ)ちゃんがた。いかがですか。おとりください」
ジョバンニは坊(ぼっ)ちゃんといわれたので、すこししゃくにさわってだまっていましたが、カムパネルラは、
「ありがとう」と言(い)いました。
すると青年は自分でとって一つずつ二人に送(おく)ってよこしましたので、ジョバンニも立って、ありがとうと言(い)いました。
燈台看守(とうだいかんしゅ)はやっと両腕(りょううで)があいたので、こんどは自分で一つずつ睡(ねむ)っている姉弟(きょうだい)の膝(ひざ)にそっと置(お)きました。
「どうもありがとう。どこでできるのですか。こんな立派(りっぱ)な苹果(りんご)は」
青年はつくづく見ながら言(い)いました。
「この辺(あたり)ではもちろん農業(のうぎょう)はいたしますけれどもたいていひとりでにいいものができるような約束(やくそく)になっております。農業(のうぎょう)だってそんなにほねはおれはしません。たいてい自分の望(のぞ)む種子(たね)さえ播(ま)けばひとりでにどんどんできます。米だってパシフィック辺(へん)のように殻(から)もないし十倍(ばい)も大きくてにおいもいいのです。けれどもあなたがたのいらっしゃる方なら農業(のうぎょう)はもうありません。苹果(りんご)だってお菓子(かし)だって、かすが少しもありませんから、みんなそのひとそのひとによってちがった、わずかのいいかおりになって毛あなからちらけてしまうのです」
にわかに男の子がばっちり眼(め)をあいて言(い)いました。
「ああぼくいまお母(っか)さんの夢(ゆめ)をみていたよ。お母(っか)さんがね、立派(りっぱ)な戸棚(とだな)や本のあるとこにいてね、ぼくの方を見て手をだしてにこにこにこにこわらったよ。ぼく、おっかさん。りんごをひろってきてあげましょうか、と言(い)ったら眼(め)がさめちゃった。ああここ、さっきの汽車のなかだねえ」
「その苹果(りんご)がそこにあります。このおじさんにいただいたのですよ」青年が言(い)いました。
「ありがとうおじさん。おや、かほるねえさんまだねてるねえ、ぼくおこしてやろう。ねえさん。ごらん、りんごをもらったよ。おきてごらん」
姉はわらって眼をさまし、まぶしそうに両手を眼にあてて、それから苹果(りんご)を見ました。
Many thanks for the text :
Aozora-Bunko (http://www.aozora.gr.jp)
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